レ・ミゼラブル考察①「サヴォワの少年、プチ・ジェルヴェ」

 

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サヴォワの少年、プチ・ジェルヴェのシーン】

小説・漫画・舞台でしばしばカットされてしまうシーンかもしれませんが

この部分について注目しました。

このシーンの具体的な解釈と重要度を改めて感じてほしいと思います。

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ジャン・ヴァルジャン

ミリエル司教との衝撃店な出会いを経たあと、プチ・ジェルヴェ少年と出会います。

少年が落とした銀貨を、ヴァルジャンは「無意識に」足で隠し、盗んでしまいます。

「僕の銀貨だ」「煙突掃除で稼いだ40スーを返してくれ」と何度も懇願しますが、ヴァルジャンは聞こえない様子でやりすごし、最後には「あっちへ行け」と追い払ってしまうという話です。

 

プチ・ジェルヴェ少年が去ったあと、その場でしばらく放心したヴァルジャンは、杖を手に取ろうとした際に足元の銀貨に気づき、そこではじめて銀貨を盗んでしまったことに気づきます。

 

すぐにプチ・ジェルヴェ少年を探し、叫びますが既に少年は近くにおらず、ヴァルジャンは後悔し、叫びます。
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このシーンについての解釈です。

私ははじめ、この話を読んだ時のヴァルジャンの心境が理解できませんでした

 

・なぜ、銀貨を盗んだのか?

・本当に銀貨を盗んだのに気づかなかったのか?

・盗んだのに後悔したのか?

・ミリエル司教の件で、反省できなかったのか?

 

この疑問を解決するために何度も読み返し、考察しました。

 

ポイントは、ヴァルジャンの生きた道と、この時のヴァルジャンの心境

ここに至るまでのヴァルジャンについて少し語ります。

ヴァルジャンは、もともと「世間知らずの青年」でした。

「無知なだけの若者」でした。

その魂は無垢だったと解釈できます。

その後、徒刑囚として過ごした19年間で「無垢な魂」は「獣の魂」となり果ててしまいました。

「パンを盗んだ罪は決して赦されないが、番号で呼ばれ、19年鎖に繋がれ鞭で打たれるべき行いだったのか?」「これが罪に見合った罰であろうか?」

すり減って、すり減って、世間に対する恨みだけが残りました。

この時、ヴァルジャンは世の中に対して復習を誓います。

 

しかし、ミリエル司教との出会いによって「獣の魂」である自分を疑いました。

復讐心がぐらぐらと揺れることになります。

 

ある小説の翻訳によると「善と悪、獣と人、ヴァルジャンは魂の在り方に酔っていた」と表現されています。

あまりに衝撃的だったミリエル司教との出会いではあったが、たった1回の出来事で復讐心を捨ててもいいものだろうか?

19年の恨み辛みの一切を捨て、会心すべきだっただろうか?

 

つまり「この時のヴァルジャンはの心境」は頭がパニックになっていると解釈できます。罪について、赦しについて、混乱した状態でした。

 

ヴァルジャンは「無意識」に盗んだ、というのがやはり正しいのだと思います。

「盗んでやろう」と思っていなかったからこそ、結果的に盗んだと気づいた時には「プチ・ジェルヴェ」の名を呼び、叫んだということです。

 

そして、カットされることもしばしばのシーンではありますが

このシーンによって「ヴァルジャンは己の罪を心から悔いることが出来た」

ものすごく大切なシーンだと思っています。

今後の生き方を決定づけたシーンといえます。

このシーンが無ければ、この後、悪に身を落としていたことも十分に考えられます。

 

この事件の重要性①

このあと、ヴァルジャンは夜中、ミリエル司教の家に戻ります。

戻りますが、会いに戻ったのではありません。

一晩中、家の前で膝をついて祈りを捧げていたようです。

"深夜に身じろぎせず祈りを捧げている様子"を目撃されています。

 

シーンは戻ります。
銀食器を盗んで連行されたヴァルジャンにミリエル司教が言いました。

「あなたはいい人になると約束しました。」
この言葉により、ヴァルジャンは"良心"を誓いました。

しかし、本当のところ
ヴァルジャンが「生涯、"良心"に生きることを誓った」出来事は
このプチ・ジェルヴェの出来事を経たからなのです。

この事件の重要性②

この事件はヴァルジャンにとって「再犯」となります。

黄色の通行券を持つものが再犯を犯すと「終身刑」になりかねません。

つまり、次に憲兵のところへ通行券を見せに行けば

ヴァルジャンには本当に未来がありませんし、良心を発揮することもありません。

 

たどり着いた街で「通行券が燃えてしまった」というトラブルがきっかけになったものの、"マドレーヌ"として生きる理由になったといえます。
※マドレーヌはイエスに許されたマグダラのマリアから取った名前

この事件の重要性③

マドレーヌとして生きていたヴァルジャンは、煙突掃除の少年を見かける度に小遣いを渡していました。

その噂が広がり、近隣の街から煙突掃除の少年がくるほどになっています。

 

そのせいで、ジャヴェールに目を付けられることになります。

ジャヴェールは、煙突掃除の少年からの訴えを知っており、ヴァルジャンの仕業ではないかと疑っていました。

 

そして、煙突掃除の少年への態度から「マドレーヌ=ヴァルジャン」の疑いを持っていました。

それに加えて、「雰囲気が似ている」や「フォーシルヴァンを救った怪力」もあってますます疑いが強くなったといえます。